○転倒骨折予防の取組み 三重県伊勢市
1.これまでの経緯
伊勢市での調査によると、介護保険適用となった方の理由は、1位が脳血
管障害、2位が転倒による骨折等、3位が痴呆、であった。
また救急出動実績から調査すると、転倒者の7割が65歳以上、そして高
齢になるほど転倒者が多くなり、特に女性の率が高くなることが判明した。
そこで伊勢市の介護予防重点活動として、○生活習慣病予防、○転倒骨折
予防、○痴呆予防 を展開することとなった。
2.伊勢市の転倒骨折予防施策の特色
@啓発活動
・冊子「転ばぬ先の杖」を配布、正しい知識を普及
・老人クラブで「転倒骨折予防」をテーマに教育を実施
・各種イベント時にはコーナー、講演会を開催
A転倒骨折予防教室
・個別健脚度測定(10項目)と筋力トレーニングメニュー(1人ひとり)
を作成。理学療法士(H14から市職員専属常勤1名)、健康運動指導士、
保健士、看護師等の専門職による教室運営。さらに「再会教室」として、
教室卒業者に対し、半年後にその後を見ることとしている。再会教室に
来れない人については、訪問をしている。
・教室卒業者で自主活動OB会を発足させ、在宅介護支援センターと連携
した自主活動を継続して行っている。市内7ヶ所の老人クラブを舞台に、
現在会員130人が活躍している。
・教室実施中に当初、中間、終了時の3回、健脚度測定、個別面接を行う。
教室に通うことにより健脚度がアップするほか「気持ちが明るく前向き
になった」などの声もある。「億劫だった自治会の旅行にもいっしょに行
けるようになった」「杖を忘れて帰る人もいる」。「筋力+自信」をつける
効果がある。測定の結果、80歳代で開始時の最大1歩幅(すなわち障
害物をまたぐ能力)66cmだった人が終了時、75cmになった。
・修了者アンケートの結果94.7%の人が「効果あり」
・メニューは、5ヶ月1スパンで計20回。1回は9:30〜11:30
で休憩をはさむ。1回1教室20人程度、3グループに分かれて行う。
・会場は保健センター、地区コミュニティセンター、地域公民館
・年間事業費234万円
・保険は1回10円、任意加入。ただし「事故があっても」という同意書
をあらかじめもらっておく。
・主治医から「診療情報提供書」をもらうことにより、保険適用になる。
(健康な人は2000円程度の有料でもらえる)
・ケーブルテレビを利用した不断の啓蒙啓発を行っている。
文字放送チャンネルを利用し、1週間スパンで自作のビデオを放送する。
インターネットからは随時、ビデオを視聴することができる。
3.感想
介護保険制度がスタートした平成12年度、すでに伊勢市では「介護保険
にお世話になる人は、転倒骨折が理由の人が多い」ということに着目、まだ
全国のどこにも転倒骨折予防施策のマニュアルはなかったが、大学の先生の
本などから職員がさまざまに工夫を重ね、今日の取り組みに至ったとのこと
です。
説明をしてくださった担当者K氏はすでに新聞報道もされた、この道の「有
名人」でした。ここまで、試行錯誤、悪戦苦闘、みようみまねでやって来ら
れたのだそうです。
平成16年の現在において、介護保険の抜本見直しに際し、国も健康寿命
を延ばす介護戦略をこれから考えようというところのようですが、いち早い
同市の着目と着手に、本当に頭が下がります。
こうした制度を作りました、希望者はどうぞいらっしゃい、という姿勢で
市民が来るのを待つ、というのでなく、あらゆる機会に啓発をし、データを
示し、必要性を訴えていることがよくわかります。ケーブルテレビで放映す
る啓発ビデオも見せていただきましたが、職員によるまったくの「手作り」。
「転ばぬ先の杖」という冊子もまた、自分たちの経験と工夫が随所にちりば
められた手作り冊子であり、また個々人別に作られるトレーニングメニュー
のサンプルもいただいて来ましたが、わかりやすさ、手書きのぬくもりなど、
高齢者への配慮に満ちたものでありました。
本題からそれますが、伊勢市では市議会の予算・決算特別委員会もテレビ
中継をしているほか、市政のさまざまなジャンルで、市民に懇切な広報啓発
活動を行っていることが、ケーブルテレビの番組表をいただいてみて、よく
わかりました。わたくしが以前から、市に対して申し上げていることであり、
意を強くしたものであります。
本題に戻りますが、時あたかも飯山・綾歌両町との合併を前に、高齢者率
の高い両町ではすでに危機感を高めて始められている筋力トレーニングやい
きいき・ふれあいサロンなどの高齢者の健康増進諸施策を、この時期丸亀市
はおおいに学習し、合併に際して取り入れていくよう、準備をしておくこと
が大事だと思っております。
伊勢市における転倒骨折予防教室のあり方は、この施策のひとつの先進事
例として学ぶべきものが多く、とともに、これからの地方行政の市民への向
かい方として、範とすべきものが非常に多かったと思います。

